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常光寺 大林慈空さん

歩いて知る 隠れた魅力
常光寺 大林慈空さんの物語り
小豆島に点在する八十八箇所の霊場
お遍路さんを迎える常光寺の慈空さんは、
“歩き遍路”なら、島の魅力を肌で感じられるという

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小豆島を見つめる一人の仏僧

「縁」をとりもち、「縁」になる

一つ、歩を進めるたびに、足元から土が匂い立つ。
落ち葉が土のうえに降り積もり、湿気を含んだ自然の匂い。
その、土の匂いにふと、磯の香が混じる。

目の前が開けて、眼下に青い海が広がる。
長い山道を歩いてきた人々の、
言葉少なくなった口から歓声が漏れる。

白衣に金剛杖をつく集団を迎えるのは、
常光寺副住職の大林慈空(じくう)さんだ。
脱サラをして母の実家である常光寺を継いだ慈空さんは、
ここでお遍路さんの世話をしている。
その熱心な姿勢は自身の小豆島への思いに根差している。

初めて小豆島を遍路した時の感動を、
お遍路さんに味わってもらうための「縁」を作り、
島の人が小豆島を見つめなおす「縁」となりたい。

島の現在を見つめ、島の未来のために活動する僧、
大林慈空さんの物語り。

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脚で越え、脚でわたる

歩いて感じる小豆島

そもそもお遍路とは、山岳修行のひとつ。
野を行き山を越え、点在する霊場をめぐる。
小豆島には八十八ヶ所の霊場が点在している。

「小豆島をめぐるのなら、歩き遍路が一番です」

こう、慈空さんは言う。徒歩、自転車、自動車、種々ある
お遍路の移動手段のなかでも、自らの脚で山を越えて、谷をわたって、
小豆島の自然を直接肌で感じるのが一番いい。

「山を登りきったあとの達成感は最高ですよ」

山を登るたびに広がる小豆島の景色に、それはまさにお遍路のハイライト。
お遍路では、いくつもの胸震わす瞬間に出会えるのだ。

およそ1200年前から現在に至るまで、多くの人がそれぞれの
想いを胸にめぐり歩いてきた。人の業から脱けたいと願い、
あるいは病の癒えるのを願い……

お遍路さんの数だけ、想いを受け止めてきた小豆島。
お遍路は、自然だけではなく、人々の想いにも触れる「縁(えにし)」となる。

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寺を継ぐ、という決断

技術者からの転身

慈空さんは小豆島に来る前は、システムエンジニアとして、
タイトだが充実した生活を送っていた。けれども、どこかに将来に対する不安が、
霧のようにモヤモヤと立ち込めていた。

そんな中、舞い込んできたのは母親の実家を継がないかという話。
それは、小豆島の寺に来ないか、という意味だった。

かつては母の実家として何度も訪れていた小豆島。
いつしか日々の忙しさの中で疎遠になっていた。

けれども迷いはなかった。自分の進むべき道は、これだ。
すっと、胸の中の霧が晴れた。

その後一年、高野山での修業を経て小豆島に来た慈空さんは、
忘れていた島の魅力に驚かされることになる。

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小豆島、面白い!

歩いて気づいた小豆島の「有り難さ」

小豆島に来て、霊場を巡り歩いた。直に島の自然に触れて、歴史を感じて、
人と出会って。―何て面白いところなんだ。

慈空さんの心に、有り難い、という言葉が浮かんだ。

他では味わえない、小豆島の「面白さ」に触れることができた、
「縁」に感謝する気持ちだったのかもしれない。

島の外から来た慈空さんが気づいた小豆島の「面白さ」は、
島の人たちにしてみれば当たり前のことでしかなく、

「小豆島には何にもない」

が口癖のようになってしまっている。

小豆島の自然、歴史、人―
どれも他所にはない、有り難いもの。
それを島の外に、内に、伝えたくて……
慈空さんは活動を始めた。

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お遍路で知る小豆島

新しいお遍路、「女子へんろ」

お遍路さんの数は、ここ二〇年ほどで激減している。
全行程150㎞の小豆島八十八ヶ所巡り。
歩けば一週間近くを要する。
会社勤めの身には厳しい日程だ。

それでも、人々の中の、お遍路への憧れは
決して消えつつあるのではない。

慈空さんが所属する「ショウドシマクリエイティブ」。
イベントの企画・運営、情報の発信を通して
小豆島を盛り上げる集団だ。

その中で毎回好評なのが、「女子へんろ」という企画。
八十八ヶ所霊場のうちの十数か所を、女性たちが歩いてめぐる。
島の人からオリーブの実をもらったり眼下に広がる絶景を写真に収めたり
たった一日の、お遍路のほんの一部を体験し、
彼女たちは小豆島の自然、歴史、人に全身で触れる。

この一日を「縁」にして、家へと戻った彼女たちが、
お遍路で感じた小豆島の魅力を話し伝えていく。

こうして広がる「縁」に、慈空さんは島の未来を見ている。

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島を知って島を愛する

お遍路で育む郷土愛

外から来るお遍路さんをもてなしながら、
慈空さんには気に懸っていることがある。
「小豆島には何もない」という島に根付いた考えだ。
これを、どうにかしたい。

卒業遍路、という言葉が浮かんだ。
中学、高校を卒業して島を離れるその前に、
改めてじっくりと島を歩いてみる。

郷土をもう一度見つめなおすために、
郷土のことを胸を張って語れるように、
島の外に島の魅力を伝えていけるように、
いつか戻って来たいと思えるように……。

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面白いことを面白い人と

慈空さんから広がる「縁」

島には面白い人が集まってきている。

「彼らと、協業していきたい。面白いことをしていきたい」

時空さんはこう語る。いろんな人と出会って、協力して、小豆島のために活動をする。
それが、死者と生者と仏との「縁」の中で生きる、僧としての自分にできること。

今、「ショウドシマクリエイティブ」で行っているように、
もっと、いろんな人と「面白い」ことを探していけたら―
一人二人と顔を思い浮かべ、慈空さんの胸は高鳴る。

一人の仏僧から広がる「縁」それは周りの人を巻き込んで、
小豆島全土をつないでいく。

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