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納涼肝試し大会発起人 赤間遼太さん

鞆の町を守りたいから
納涼肝試し大会発起人 赤間遼太さんの物語り
鞆の浦秋祭りの人気イベント――「お化け屋敷」。
このイベントの仕掛人は、当時大学生だった赤間遼太さん。
横浜の学生が、なぜ鞆の浦で?
そこには大好きな町を守りたいという想いがあった。

 01

秋祭りで人気の
お化け屋敷

仕掛け人は横浜の大学生

9月の三連休に行われる、鞆の浦の秋祭り。
今日はその2日目だ。
「鞆の浦アイヤ節」を始め、さまざまな踊りが町なかで披露されている。
賑やかな踊りの行列を眺めていると、妙な顔をした若者が通り過ぎた。
真っ白な肌に血が流れている……。

これはもしかしてお化けのメイク?
まじまじと見つめていると、その若者が笑って教えてくれた。
「今日の夜、肝試しがあるんですよ! これこれ!」

そう言って壁に貼られているポスターを指さす。
そこには、おどろおどろしい文字でこう書いてあった。

「体験型お化け屋敷 宵闇にさまよう落武者の魂……」

そういえばここ数年、秋祭りにあわせてお化け屋敷が登場し、
子ども達に大人気だという話を聞いたことがある。

運営をしているのは、福山市立大学のサークル「ポジティ部」
の学生達らしい。
ちょうど今、民家を借りて準備をしているとのこと。
おもしろそうなので、落ち武者メイクの若者についていくことにした。

聞くところによると、このお化け屋敷企画は今年で4回目。
今は福山市立大学の学生が中心となって運営しているが、
もともとの発起人は横浜国立大学の学生だったとか。

なぜ、横浜の学生が、鞆の浦でお化け屋敷をやろうと思ったのだろう?
今日は、その発起人が来ているそうだ。
いったいどんな人だろうか?

 02

大好きな町を守る
そのために始めたこと

地域に溶け込むため、祭に参加

学生達が集まっていたのは、高台にある洋風の民家。
お化け屋敷の発起人である赤間遼太さんは、
ちょうど時間が空いていたようで、突然の訪問にもかかわらず、
人気イベントが生まれるまでを語ってくれた。

赤間さんが初めて鞆を訪れたのは、大学4年生の時。
大学で地域防災を研究しており、そのフィールドワークのためだった。
鞆で数日過ごすうちに、その美しい景色と住民の温い心に触れ、
たちまち魅了された。

「横浜の知り合いに鞆のことを話す時は、
映画『Always 三丁目の夕日』の世界が、現代にもあるんだよって
言ってました」

一方で、調査をすればするほど、鞆の災害リスクが高いことがわかった。
リスクに対処するためには、住民の防災意識を向上させる活動、
学校での防災教育、それらを継続していくことなどが重要になる。
とはいえ、外部の人間がいきなり具体策を説いても
なかなか上手くいかないだろう。

そこで赤間さんは、まずは地域に溶け込むことから始めた。
ボランティアとして祭に参加するとともに、祭りで子ども達が
喜びそうな企画を考えたのだ。
それが、納涼肝試し大会――お化け屋敷である。

 04

確信を持ったら
すぐに行動に移す

本格的なお化け屋敷を鞆の町に!

お化け屋敷をするのにぴったりの日が、秋祭りの2日目だった。

「2日目の夜は、大人達が宴会をするんですよ。子ども達は
つまらないですよね。大人は大人で子どもの面倒を見るのが大変。
だから夜に子ども達が楽しめるイベントがあれば、
ニーズに応えられると思ったんです」

渡守神社の例祭である秋祭りは、1日目に
神社から当番町の御旅所へご神体をお迎えする。
2日に当番町で御旅所祭が行われ、3日目にご神体を神社に
お戻しするという流れだ。

2日目の夜は、「當屋(とうや)」と呼ばれる宴席が町中に設けられ、
人々は酒を酌み交わして賑やかに過ごす。
神様とともに賑やかに過ごすという意味もあるのだろう。

當屋の夜に肝試しができるお化け屋敷をつくろうと
思い立った赤間さんは、
地域密着型介護施設であるさくらホームの協力を仰ぎ、
住民や地元大学の学生を巻き込んで準備を始めた。

前例もなければ、子ども達が来てくれるという保証もない。
でも、赤間さんのモットーは、
「思いついたことに確信が持てれば、すぐ行動に移す」
ということ。
そして、行動を起こせば、必ず仲間に出逢えるのだ。
赤間さんは試行錯誤しながらも、仲間と一緒に
本格的なお化け屋敷をつくり上げた。

結果は、大成功!
子どもだけではなく大人にも好評で、200人以上が
訪れてくれたそうだ。ピーク時には90分待ちの行列ができたという。

 05

防災は難しい
でも、方法はある

地域の防災力を向上させるためには?

秋祭りを盛り上げる新しいイベントを成功させ、地域に
受け入れられ始めた赤間さん。
念願だった小学校での防災教育が実現することになった。
小学校のほうから依頼があったのだ。

赤間さんが授業の前に訪ねてみると、ほとんどの子が
お化け屋敷に来てくれていた。
赤間さんを見て、「あ、お化け屋敷のお兄さんだ」と
思った子も多かっただろう。

子ども達は赤間さんが語った災害リスクの話に衝撃を受け、
それぞれの家庭でその話を大人達に伝えた。
それが、地域に防災意識が広まっていくきっかけとなったそうだ。

「ただ、本格的に防災をしていくには、お金も時間もかかるんです」

災害対策は、一朝一夕で成し得ることではない。
継続することが大切だ。
そのためには地域が元気でなければならないし、
外部の人の力も必要――。

「それで、至った結論は
『鞆のファン』を増やすことだったんです」

鞆の浦を知ってもらう機会を作れば、「ファン」が増えるはず。
災害があった時にも、
お互いに助け合おうという地域の人たちが増えるだろう。
それに、鞆を好きになった人が移住してくれれば、
人口が増えて火災になりやすい空き家が減ったり、
整備が進んだりと防災力が高まる。

 06

鞆の新たなファンが
鞆の宣伝部長に

福山市立大学の鷲野太平さん

赤間さんがアプローチした福山市立大学の先生と
話したことがきっかけで、
鞆へ住むことになったという学生さんがいた。

鷲野太平さん。都市経営学部の4年生だ。

もともと大学から自転車で20分くらいの距離にある
アパートに住んでいた。
もっと広い所に住みたいと思い、先生に相談したところ、
鞆に空き家があると教えてもらったそうだ。
紹介してもらった物件は一軒家で7部屋もある。
大学へは、バイクで30分程度。すぐに引っ越しを決めた。

「鞆は祭りが楽しいんですけど、それは住んでから知った魅力でした」

平地区に住んでいる鷲野さんは、地域のお祭りに準備段階から参加し、
当日は御神輿をかつぎ、太鼓を叩いたそうだ。
祭での出来事や、頼りになる町内会長さんのエピソードを
笑顔で話してくれる鷲野さん。
鞆での生活を楽しんでいるのが伝わって来る。

「大学では、鞆の宣伝ばっかりしてますよ。
僕の家なら、何日でも泊まっていいよって。観光地としての鞆だけ
じゃなくて、鞆の暮らしを知ってほしいと思ってます」

鷲野さんは、まさに赤間さんが言うところの「鞆のファン」だ。
しかもファンにとどまらず、「鞆の宣伝部長」にもなっている。

赤間さんの行動によって生まれた流れが、巡り巡って
鷲野さんのような人材を鞆に引き寄せている。
きっとこの流れは、今後さらに大きくなっていくのだろう。

07

たくさんの学生に
参加してほしい

そのための仕組みができている

山の向こうに日が落ちて、軒先に下がる提灯に火が灯り始めた。
大人達は宴会の準備に大忙し。當屋の宴の始まりだ。
そして、お化け屋敷の準備も整った様子。

お化け屋敷の会場に足を運んでみると、すでに長蛇の列。
子ども達が並ぶ列の向こうには、忙しそうに立ち働く学生達の
姿が見える。

今年のお化け屋敷には、5つの大学から学生が参加しているそうだ。
福山市立大学をはじめとして、立命館大学、香川大学、宮城大学、
そして赤間さんの古巣である横浜国立大学。

昼間に、赤間さんが話していたことを思い出す。
「来年のお化け屋敷は、盛大にやろうとしているんですよ。
福山市市制100周年記念事業に認められて助成金がもらえるんです。
来年はもっとたくさんの大学生に参加してほしいですね」

来年は空き家を舞台としたお化け屋敷を構想しているとのこと。
鞆には、手入れされていない空き家がたくさんある。
ボランティアでそれらの空き家をきれいに掃除するので、
当日お化け屋敷の会場にさせてもらえないかと交渉しているそうだ。
さらに、そこを遠方から来る学生のための一時的な宿泊所に
させてもらえればと考えている。

赤間さんは、来年に向けた構想を、実に端的に表現した。
「鞆のファンを増やすこと」
このことを真剣に考えているからこそ、
これほど明確に、かつ多方面に利益のある
仕組みが描けるのだろう。

08

行動力ある若者が
集まる鞆の町

「類は友を呼ぶ」で広がる輪

赤間さんによると、参加する学生同士が仲良くなれるよう、
来年の秋祭りまでにバーベキューなどのイベントを
何度か行う予定だそうだ。

「学生が一緒に空き家の掃除をすることで、お互いに打ち解ける
でしょうし、バーベキューで親睦も深められるんです」

そこまで考えているとは、もう脱帽するしかない。
こんな仕組みがあるのなら、たとえ一人で参加しても楽しめそうだ。

赤間さんは、お化け屋敷企画を、単なる一過性のイベントではなく
持続可能な地域活性化イベントへと成長させている。
このイベントで、地域の人達が喜び、子ども達が興奮し、
参加する学生達も楽しんでいる。
(学生同士のカップルも誕生しているとか……!)

そして、確実に鞆のファンが増えていっている。
きっと地元の人達も、鞆の魅力を再認識しているはず。

今、20代の若者はゆとり世代と呼ばれ、積極性がないと言われる
こともある。
しかし、鞆に集まる若者たちは皆、自分のやりたいことを
積極的に行動に移している。
赤間さんのように、今までにない新しい仕組みを
つくり上げている若者もいるのだ。

来年はどんな若者が鞆に集まるのだろう?

志はあるのに、仲間がいないと感じている学生さん!
鞆の浦に来てみたら、真の仲間に出逢えるかもしれませんよ。

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