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鞆の津ふれあいサロン

「見守る」という心の交流
鞆の津ふれあいサロンの物語り
平という町で、地域交流の場となっているサロン。
この場所を中心とした人々のあたたかな触れ合いと、
楽しく前向きに生きるおばちゃんたちの笑顔をつづる。

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元・鞆平保育所での
出会い

心を開く、打ち解けた笑顔

穏やかな瀬戸内の海を望む古い保育園。

一見、どこにでもあるようだが、
スタジオジブリのアニメ「崖の上のポニョ」に登場する
保育園のモデルになったとも言われている、
ちょっと有名な場所である。

しかし、もうここに通ってくる園児はいない。
今は、鞆の浦のNPO法人が運営する地域交流の
場となっている。

子供たちの遊ぶ賑やかな声と引き換えに、
今は穏やかな時が流れている。
僕はここで、素敵な二人の「おばちゃん」に出会った。

愛嬌たっぷりの笑顔と仕草で迎えてくれた二人は、
僕たちが忘れてしまった大切なものを教えてくれた。

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楽しくって
しょうがない

鞆の津ふれあいサロンって?

「わたしら、全然しゃべれんよお」

そう冗談めかしていたものの、
五分もすると人懐っこい軽快な備後弁は、
どんどん飛び出してきた。

鞆の浦は平港周辺の町、平地区で運営されている
「鞆の津ふれあいサロン」。
地域の方々の交流の場となっていて、岡本かずえさんと
坂本あいこさんは仲間と共に、ここでボランティアをしている。

活動内容は多岐にわたり、
筋トレ教室や体操教室、ヨガ教室など様々だ。

「なんでもするよ。今までもなんでもしてきたけえね。
なんたって楽しいもんね」

しゃべれないと言いつつ、活動の思い出や仲間、
とりわけ鞆の浦のことになると、
彼女たちの話は止まらない。

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ふるさとを、
歌って、愛して

鞆の浦めぐる4分間

普段の活動について聞いてみると、
あれやこれや話してくれる。

「あ、あたし歌も歌ったのよ。
ネットでも公開されとるんよ」

え、つまり歌手ってこと!?

「ハハハ、そうね。歌手ね。
『故郷が見える鞆の浦』っていう曲でね。
鞆の浦の祭りや景色が歌詞に沢山織り込んであって、
これを聞けば鞆の浦巡りができるようになってるんよ」

他にも、『生き生きサロン讃歌』や『一人ぼっちにならないで』
という歌もある。これらはCDにもなっているらしい。
なんと彼女たち、CDデビューまでしていたのだ。

「〽︎一人ぼっちにならないで~、いうてな!」

なかなか引き出しの多いおばちゃんたちである。

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持ちつ持たれつ12年

みんな大好き稲葉さん

ほんとええ人でねえ」
彼女たちがそう口を揃えて言うのが、
「NPO法人 鞆の人と共にくらしを」の代表、
稲葉繁人さんである。

彼は、「鞆の津ふれあいサロン」の運営も、
先頭に立って行っている。

日頃から気に掛け、鞆の人のために尽くしてくれる。
そんな優しい稲葉さんに何か頼まれると、
彼女たちも応えずにはいられない。
持ちつ持たれつ、というわけだ。

「そんなこんなで12年も経ってしまったね」

「何より仲間がいいけえね。
おんなじ気持ちでやりよるけん。
みんな好きで動きよるんよ」

そう笑う彼女たちは、本当に楽しそうである。

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自然であたたかな
眼差し

ご近所さんの“見守り”

彼女たちの活動は、ふれあいサロンの
中だけにとどまらない。もはや、普段の
生活の中に染み込んでいるものもある。

過疎化が進むこの地域には、
独り暮らし世帯も少なくない。
彼女たちの周りにも、数人のお年寄りが
独りで住んでいる。二人は、独り暮らしの
お年寄りに普段から気を配り、
声をかけるようにしているという。

決して「余計なお世話」にはならぬよう、
いつもと様子が違う時だけ。

彼女たちのあたたかな眼差しと
ちょっとした声掛けは確かな積み重ねとなっている。
その証拠に、最初は少し壁を感じていたお年寄りも、
何かあれば自分から話し掛けてくれるようになったという。

「ここのお年寄りは幸せやと思います」

二人は揃って微笑む。

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ささやかな
願いを持って

「鞆に来てください。ようしてあげるよ」

鞆の浦で、大好きな仲間とふるさとを
愛しながら楽しく生きる彼女たち。
今が一番幸せ、でも小さな願いも抱いている。

「若い人が仲間として来てくれたら、もっといいねえ。
一緒に楽しく活動できる若い人。
若いっていっても、50代だっていいのよ。
今の仲間でいうたら、最年少でも60代なんだから」

そう語る顔は、はつらつとあかるい。

「鞆に来てください。ようしてあげるよ」

最後に付け加えられたこの言葉に、
僕はなんだか懐かしいような、
不思議な気持ちがこみ上げてきた。

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町の魅力は「人」

きっと幸せに住める町

「ほんとは私らもお世話してもらう側なんやけどな」

そう笑う二人、実は御年70歳になる。

「でも、誰かになんかしてあげて、その人が喜んでくれて、
自分も嬉しくなるってのが好きやけえねえ。
それで続けておられるんやね」

どこにでも居そうで、気が付けば周りに居なくなった、
明るくてあたたかいおばちゃん。

やさしい訛りのある言葉で、
話し出したら止まらない。
口から出る言葉はみんな明るく弾んでいて、
ポジティブの塊みたいだ。

ご近所さんを気に掛けてくれる人。
お世話になっている人の頼みごとを
快く引き受ける人。そして何よりも、
誰かの喜びを自身の喜びとして生きる人。

当たり前のことのようだけど、
気が付けば僕らの周りには少なくなって
しまった気がする。

この二人がいるだけで、平の町の人たちは
幸せだろうなあと思った。
この町がずっと好きになった。

なんでも揃う都会の暮らしも便利でいいけど、
近くにこんな笑顔のある、鞆の暮らしもいいなあ。

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