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大内宿 半夏まつり

大内宿 ハレの祭りは夏の中
大内宿 半夏まつりの物語り
宿場町の風情を今に残す、会津の大内宿
半夏の日、そこのけそこのけ、神輿が通る―
さあ、このハレの日のお祭りを、のんびり見物

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ハレの祭りは、夏の中

大内宿 半夏まつりの物語り 

抜けるような青空の中、立ち並ぶ茅葺きの屋根。
夏を纏(まと)って幟(のぼり)がはためく。 

会津の地、江戸時代の宿場を思わせる大内宿。
のんびりとしたこの集落に、
また訪れる、半夏生(はんげしょう)。 

獅子舞と、高下駄履いた天狗の面、
神様おわす御輿を護り、年に一度、御山を降りる。 

白装束と黒烏帽子、古式ゆかしい行列が、
緑の海成す田んぼの道を、
しゃなりのんびり、往き過ぎる。 

聞こえ来る祭り囃に、人びとは皆、心躍らせて、
常とは違うハレの日を、
土地に根付いた人も、外からの稀人(マレビト)も、
皆晴々しく、等しく祝う。 

豊かな田舎に息づく、素朴な祭り、
大内宿「半夏まつり」の物語り。

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御神のおわすところ、歴史あり

半夏生の日の、伝統 

「半夏まつり」は、
会津の大内宿にて古くから執り行われている、
古式ゆかしい伝統行事。 

毎年、夏の中ごろ、7月2日。
仏教で言う半夏生の日に行われるので、
「半夏まつり」と呼ばれている。 

半夏生の頃は、季節柄、大雨が多いという。
けれども、「半夏まつり」は、必ずこの半夏の日に行われ、
そうして、絶えることなく今日まで続いている。 

後白河天皇の第2皇子(第3皇子とも)、
高倉以仁王(もちひとおう)の御霊を祀った「高倉神社」。
御神の宿るその場所が、この祭りの出発点だ。 

神社での神事が無事に済むと、
白装束を身に纏い、黒い烏帽子を被った村の男たちが現れる。 

彼らは神輿を担いで粛然と行列をつくり、
家内安全、五穀豊穣を祈念する。 

遠くから祭り囃が響いてきたら、
さあ、今年も「半夏まつり」がやってくる。

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集落を上げて、祭りに耽る

「半夏まつり」の一日 

祭りの前日には「宵宮祭」がある。 

行灯(あんどん)やろうそくなど、昔ながらの灯りの中で、
祭礼の段取りの最後の確認をする、祭りの責任者たち。
そして、お神酒で乾杯した後、「おこもり」が始まる。 

夜中まで鳴り響く笛や太鼓の音は、
これから来る非日常への期待を高めてくれる。 

夜が明けて、いよいよ祭りの当日。
白装束の男衆が拝殿の前に並んで祭礼を行い、
それから、緑に守られるようにして佇む神社を後にする。 

獅子が露払いを務め、天狗が鈴を鳴らして歩く。 

神輿を担いだ白装束の男衆。
子どもらもまた揃いの白い装束で、
神様の御道具、長櫃(ながびつ)を、恭しくお運び申す。 

ひと際目立つ赤い御傘の更に上には、柔らかな夏の風が通り過ぎ、
道の両脇に広がる田んぼの、青々とした稲をさわりと撫でる。 

行列を追う普段着の人びとは、皆、いかにも楽し気だ。
一方、大内宿の集落の中には、山車(だし)が出ている。
力を合わせて引っ張るのは、法被姿の子どもたち。 

その小さな祭の担い手を、見守る大人たちの目は、やさしい。

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大内宿の、長閑なじかん

祭りに見る、人びとの営み 

そんな厳かな神事の中にも、
この土地が持つ大らかさは、優しくにじむ。 

怖いお顔の天狗も、神社の階段を降りる時には、
ぽいと高下駄を脱いでしまう。 

行列の者らは、「ずるすんな」と笑いながら窘(たしな)めるが、
当の天狗は、「落ちたりしたら、なじょすんだ」と、
からりと笑い、実にあっけらかんとしたものだ。 

休憩所では行列にお神酒が振舞われ、
子どもらにはラムネのご褒美。
清らかな山の水で冷やした、一級品のお味に一同、喉を鳴らす。 

「ゆっぐりゆっぐり、休みがでらなあ」 

祭の男衆らはそう言って、観光客の前でも、のんびり、のんびり。
まるで時間がゆっくり、清浄に流れているようだ。
これが、あの素朴な茅葺き屋根を守る人びとの、じかんの感覚。 

そんな中で、子どもたちはお揃いの藁草履を履きながら、
無邪気に笑い合っている。 

ああ、長閑(のどか)―。
今の世にあって、まるで別天地のような、長閑さだ。 

ここは何か、人間の求めて已(や)まないものを、
ふんわりと内包している―、そんな気がした。

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祭りの合間に、ひとやすみ

大内宿のごちそう 

行列の衆らに倣(なら)って、ちょっと休憩と洒落こもう。
どうせなら、この土地の味覚も堪能しておきたい。 

時代と趣を感じる茅葺きの民家の内からひとつを選び、
そのお店にて頼んだのは、大内宿名物「高遠そば」。
長ねぎ一本がそばに突き刺さり、その様には実に驚かされる。 

添えられた棒ねぎで、そばを掬(すく)って、つるりと一口。
生の葱はつんと辛く、つゆとそばとも良く合って、
鼻にも胃にも、その刺激は心地好く沁み渡る。 

そばを啜(すす)っている間にも、お囃子の音は聞こえてくる。 

神妙なのに、どこかおどけた笛の音、
そして、威勢の良い太鼓の響き。 

それは遠くから流れてきて、
―ああ、近くなった、と思ったら、
そうして、すぐまた遠ざかる。 

そばの他にも、もう一品、どうだろう。
会津の郷土料理「こづゆ」は、やさしいお味に具だくさん、
天然の岩魚(イワナ)も、捨てがたい! 

おっといけない。
あまり欲張っては、祭りに置いて行かれてしまうかもしれない。 

だけど、この土地に根差した味覚は、実に実に、魅惑的―。

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伝わる祭り、伝える人びと

大内宿は、おおらかに 

最後の休憩所である宮司の本家にて奉納の儀が終わると、
行列は「高倉神社」へと帰っていく。 

これで今年の「半夏まつり」は、おしまい。
また来年が、待ち遠しい。 

大内宿の人びとの妙(たえ)なる努力で、
「半夏まつり」は、来年もその次も、
ずっとずっと、続いていくだろう。 

伝承は親から子へ、脈々と受け継がれていく。
彼らはきっと、我々が思うよりずっと多くのものを、
そして、ずっと大きなものを守り続けているのだろう。

素朴な笑顔で、ゆっくりゆっくり、休みながら―。
優しい緑の田んぼの畦道、
茅葺きの民家の建ち並ぶ集落。 

もしかしたら、神様も神輿をそっと抜け出して、
こっそりと人びとの波に混ざりながら、
この夏の日のお祭りを、楽しんでいたのかもしれない。

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