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pensée florist 西脇美津江さん

オリーブに導かれて
pensée florist 西脇美津江さんの物語り
40年の東京生活を終わらせ、
導かれるように渡った小豆島
そこで彼女は運命の出会いを果たす

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はじまりは、大切な人との別れ

〜前へ進むために〜

転機となったのは、40歳を前にしての離婚。

これまで受験や仕事の失敗など、節目節目で挫折を味わってきた。

でも、今回のは違う。

信頼していた人との別れは、彼女の心をかつてないほど傷つけた。

「つらいけど、前に進まなきゃ」

そんなとき、ふっと心に浮かんだのは、いつか見たのどかな風景と、
太陽を燦々と浴びるオリーブの樹。

「戻りたくなったら、戻ればいい」

そう思い立って島に渡り、あっという間に5年。

生まれてこの方、一度も東京を出たことのなかった彼女が
すっかり“島の人”になったのはどうしてなのだろう。

2

華やかな世界を捨てて

〜素材と向き合いたい〜

東京は下町、浅草。ここで花屋を営む両親のもとに
美津江さんは生まれた。

毎日忙しなく働く親の姿を間近に見て、
「花屋にだけは絶対ならない」
そう幼心に決めていた。

大学でデザインを学んでから数年後、
美津江さんはフラワーアレンジメントの
仕事をはじめる。

それも、華やかなウェディングの世界。
現場は都内の有名レストランや一流ホテルだ。

会場をたくさんの美しい花で飾り、
花嫁のためにブーケをつくる日々。

あくせく働くうちに、美津江さんは思った。

「花嫁さんにとっては一生に一度、たったひとつの特別なブーケ。
でも私は、流れ作業のようにして一日に大量の花をさばいている。
ずっとこうして花と付き合っていくのかな」

忙しい現場では、ひとつの花とじっくり語らう時間などない。

しかも手元に届く花は皆、出荷時に選別され、
色形の整った粒ぞろいのものばかり。

花に囲まれて育ち、花が大好きだからこの仕事を選んだ。

なのに、何かが違う。

「もっとありのままの素材と向き合いたい」

離婚を引き金にして丁度このころ、旅行で訪れたことのある小豆島を
ぼんやりと思い出していた。

「あ、オリーブ……」

島に移住しながらオリーブを育てる。
そんな暮らしも、いいかもしれない。

身も心も疲れていた美津江さんは単身、
生まれ育った東京を飛び出した。

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農園仕事に明け暮れた日々

〜ゼロから学んだ楽しさ〜

「オリーブの栽培?なら紹介してあげるよ」

仕事は意外なほどすぐに見つかった。

友人が以前、小豆島ヘルシーランドを取材した縁で、
同社のオリーヴ農園を紹介してくれたのだ。

華やかな世界から一転。照りつける太陽の下、
体中を虫に刺されながら、作業服を土まみれにして
なりふり構わず働いた。

「でも、とっても楽しかった」

そう言いながら美津江さんは、目を輝かせて遠くを見る。

「植物って、ちゃんと応えてくれるの、
愛情をかければそのぶん。何も言わないけどね。
もちろん思い通りの結果が出ないこともある。
人生観みたいなものを学んだ気がするのよ」

農園でゼロから学ぶこと、
そのすべてが楽しかったという美津江さん。

豊かなオリーブの森に囲まれて、
日焼けした顔でめいっぱい笑う姿が
目に浮かぶようだった。

4

オリーブが結んだ恋

〜“想い”は変わる〜

こうして小豆島で新たなスタートを切った美津江さん。

思いがけずオリーヴ農園では、ひとつの恋が芽生えはじめていた。

「仕事の相談をしたり、島の案内を頼んだりするうちに
かけがえのない存在になって」

それから間もなく、美津江さんは
同じ農園で働く男性と結婚をする。

人生で2度目の結婚だった。
島行きを見送ってくれた時、友人は
「一生住まなきゃなんて気負わないで、
気楽な気持ちで行っておいでよ」と
背中を押してくれた。

自分の中にも、「いつか帰るのかな」という気持ちが
なかったわけではない。

でも結婚を機に、この地に腰を落ち着けよう、
そう思うようになった。

「これからは自分の店を持ってみたい」

農園を退社した美津江さんは、
一念発起で小さな花屋をオープン。

「想い」を意味する「pensée(パンセ)」と名付けた。
2012年、夏のことである。

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小豆島を、ここから発信したい

〜魅力を届ける花屋さん〜

当初penséeは、ギフトショップになる予定だった。

オリーブオイルや素麺など、小豆島の特産品と花をセットにして
贈答用に使える店にしたかったという。

しかしオープン時の季節は夏。夏は店頭に並べられる花が少ない。

品ぞろえにボリュームを出そうと、間に合わせのように置いた
観葉植物が思わぬ人気を博す。

以来、“島の小さな花屋さん”として地元住民を中心に愛されるようになった。
一方で、店を営むうちにこれまでとは違った形で
地域の人と“つながり”はじめた。

島の人たちと触れ合うにつれ、美津江さんの心に
「ここを、地域を元気にする場所にできたら」
という想いが生まれる。

そうしてゆくゆくは、ここから小豆島の魅力を発信したい。

「それにしても……」

美津江さんは可笑しそうにつぶやいた。

「小さい頃はあれだけ『ならない!』って
思っていたのに、今じゃすっかりお花屋さん。
これも、巡り合わせなのかしら」

6

花香るオリーブオイルの夢

〜大好きなこと〜

小豆島に来て5年。

40年間暮らした東京への恋しさは、今のところないという。

店があるため、帰れるのは年に1、2回あるかどうか。

「帰ってもね、ホッとするどころか逆に疲れちゃうんです。
またすぐに島へ戻りたくなる」

と、弾けるような笑顔を見せる。そんな彼女の夢は、
penséeオリジナルのオリーブオイルをつくること。

「オリーブって、すごくたくさんの
品種があるの。味わいもそれぞれ。
お花の香りを感じる品種を自ら栽培して、
お花のオリーブオイルをつくりたいな、って」

オリーヴ農園を辞めた今も、
大好きなオリーブの栽培は続けている。

7

来るべくして、ここへ来た

〜オリーブが導いた運命〜

ふと思い立って、今までの人生をリセットするかのように
移り住んだ小豆島。

5年前、オリーブに導かれ、意の向くままにやって来た島。

風に乗って飛んでくるオリーブの葉のように、
思いも寄らぬ方向から舞い込む縁に恵まれて、
美津江さんは第2の人生を歩みはじめた。

何となくの偶然に見えて、決してそうでない。
彼女は来るべくしてここへ来た。

この島の海みたいにやさしく、自然体。
オリーブの花にも負けない可憐なその笑顔を見れば、
誰だってそう思うだろう。

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