Ristorante FURYU 渋谷 信人さん
山形から移住してきたオーナーシェフは、
小豆島の豊かな恵みに決して感謝を忘れない
緑はなやぐ、海風の島へ
自然と共に、食をつくる人
暖かい気候、温かな人。のどかな島での、自然に囲まれたくらし。
季節の花を愛で、風と語り、旬のものを食べてゆっくりと歳をとる。
すべてが揃うわけではないけれど、工夫しだいで、豊かな毎日が手に入る。
そんな生き方に、憧れたことはないだろうか。
潮風薫る港の近く、坂の向こうの一軒家レストラン「FURYU(フリュウ)」。
ここで、ささやかに夢を叶えた人がいる。
小豆島イタリアン『Ristrante FURYU』
オーナーシェフ、渋谷信人さんの物語り。
毎日を彩る「食」の道
雪国から、オリーブの地へ
冬でも温暖な気候。島で育つオリーブにレモン、それから海の幸。
小豆島は、生活するにも、店を構えるにも素敵なところだった。
渋谷さんの生まれは雪国、山形。東京へ出て、
飲食店でのアルバイトを皮切りに、様々な職を経験した。
本格的にレストランでの修業を始めたのは、今から10年ほど前のこと。
当時ロハスという言葉がはやり、みんなの生活への意識が変わりつつあった。
そんな中で、体のもととなり、人々の日常をつくる、
「食」への興味が湧いたのだった。
やがて渋谷さんはイタリアの素朴な食に惹かれ、
イタリア料理を学ぶ。
オーガニック食材をつかうイタリアンレストランで働くうち、
渋谷さんは新鮮で、安全な素材に対するこだわりを覚え始めた。
やがて「自然に恵まれた環境の良いところで、お店を開きたい」
そう考えるようになった。
故郷の山形に帰ることも考えた渋谷さん。
そんな彼が小豆島へ移住することを決めたのは、
町役場が運営するウェブサイトで見た空き家情報と、
実際に島を訪れてみつけた、暖かで心地のいい気候、
そして、豊富で多彩な食材のためだった。
南イタリアの風をかんじる
海、緑、太陽の景色
南イタリアをイメージしたFURYUは、作りこみすぎない、
素朴さを大切にしている。
かべは白。店で使う皿も、店内に置かれたピアノも、
すべて渋谷さんがひとつひとつ選んだものだ。
窓を開けると、景色を彩るのは鮮やかな緑色。
季節ごとに咲く花が訪れる人の目を楽しませてくれる。
青々とした海は夕暮れ時になると、沈む夕陽に照らされ
てオレンジ色に染まっていく。
「コンクリートのビルなんかが見えたら、つまらないでしょう?」
渋谷さんはそう言って笑う。
お店を回すのは、渋谷さん一人だ。忙しい時は家族に手伝ってもらうことも
あるけれど、無理のない範囲で、長く続けられるお店づくりを心掛けている。
小豆島イタリアン
素朴でおいしいひと皿
『FURYU』の料理は、イタリアの田舎でふるまわれるような、
シンプルでオーソドックスなもの。
奇をてらわず、素材の味を存分に引き出す
昔ながらのイタリアの味だ。
素材は小豆島や四国にあるものを使う。
もちろんイタリアンならではの食材となると、
島では手に入らないこともある。
それでも、できる限り代用したり、無いものは自分で作ってしまう。
自分の足で探し、自分の目で見定め、手ずから集めたものでひと皿を作り上げる。
それは渋谷さんの思う、安心のかたちだ。
「全部うちでしぼったオリーブですって、お皿に出せるのが、一番贅沢ですよね」
そうして作ったひと皿は、お客さんに自信を持って出すことができる。
難しいことはしないけれど、たっぷり手間と時間をかける。
ここ小豆島では、それができるのだ。
FURYUに込めた想い
瀬戸内に根付く精神
『FURYU(フリュウ)』というのは、瀬戸内の精神を表す言葉のこと。
島のお祭りで、趣向を凝らし、神さまや見る人々を歓ばせる。
そんな精神を、小豆島の人は昔から大切にしている。
渋谷さんは、この言葉を「おもてなしの心」だと考えた。
人はみな、生きているものを食べ、その恩恵を受けている。
渋谷さんが料理に使う食べ物は、水や太陽の光を受け、豊かな土で大切に
育てられた恵みそのものだ。
この店で、素晴らしい素材を料理に変え、みんなに喜んでもらいたい。
それが彼の思う、「おもてなしの心」だ。
彼はまた、店を長く続けることも重要だという。
無理のない店づくりをして、日々の営みを着実に繰り返す。
この島にずっと根付いて、お客さんにいつも喜びを届けたい。
自らの手で素材を探し、じっくりと手をかけ、自分ができる自然なかたちで、
喜んでもらえるおもてなしを続けていこう。この店には、
そんな想いが込められている。
地元の人と、ふれあい、つながる
移り住むこと、根付くこと
渋谷さんが妻や子供とこの土地に移り住み、3年が経った。
「来る前は店をやっていけるのかとか、
病院はあるのかとか、色々心配しました」
しかし、いざ暮らしてみると、それほど不便は感じない。
それに、島の人は想像していたよりずっと温かかった。
「この近くで畑をやっている人がいて、自分も畑をやりたいと言ったら
『うちでやれば』って言ってくれたんですよ」
渋谷さんは少しずつ交友を広げていき、島の人々は越して来たばかりの
彼を色々と手伝ってくれた。
レストランがオープンする際には、地元の人に来てもらいたくて、
お披露目の意味を込めてレセプションを開いた。
口コミで噂が広がり、今は約七割が地元のお客さん。
毎日のちょっとした挨拶なんかも、楽しみながら大事にする。
お店でのお客さんとの会話はもちろん、
ご近所づきあいや、色々な集まりにも顔を出す。
島になじんで、楽しくはたらく
小豆島での仕事
「お店を開きたいって人には、小豆島はおすすめだと思います」
小豆島は飲食店が少なく、まだまだ新しくやってきた人が活躍できる環境だ。
しかしこの土地では都会と違って、目の前を歩いている人がふらりとお店に
入ってくることはほとんどない。渋谷さんがお店を開くときにも、
外食の文化が無いからレストランは難しいかもしれない、
なんてことも言われた。
「でも、人口が3万人もいれば毎日誰かは誕生日でしょうし。
記念日やお祝い事で来てくだされば良いなって思ったんです」
こうして店を構えた渋谷さんにとって、
こつこつと築いた島の人との信頼関係は大切な鍵となった。
「小さい島ですから、コミュニケーションは本当に大事です。
それをしっかり踏まえて、ここでの暮らしを楽しめる人なら、
小豆島ではいつでもウェルカムですよ」
渋谷さんはにっこり笑う。この島での仕事に誇りを持って、
心から楽しんでいる顔だ。