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「秋祭りと「鞆の浦まちづくり塾」」

貴重な出会いから
生まれる未来がある
「秋祭りと鞆の浦まちづくり塾」の物語り
2015年7月に開講した「鞆の浦まちづくり塾」。
その最後のプログラムが、渡守神社の例祭である秋祭りだ。
夏から秋を鞆で過ごし、秋祭りに参加した3人の塾生の物語り。

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今年も秋祭りが
やってきた

鞆につどった塾生たちの物語

気持ちよく晴れた秋の週末。
ピーヒョロロロロー
と、町の上空でトンビがしきりに鳴いている。

今日から3日間、秋祭りが行われるとあって、
鞆の町は活気に満ちている。

鞆の浦の秋祭りは渡守神社の例祭で、地域でもっとも
盛り上がる祭りのひとつ。

例祭に参加する地域は、旧鞆七町の
江之浦町、西町、道越町、関町、石井町、鍛冶・祇園町、原町
(現在の住所はすべて鞆町)で、
祭りの仕切りは旧町会ごとの輪番制になっている。
今年の当番町は道越だ。

祭の担い手は高齢化し、参加者も減っていると聞く。
ただ、今年の秋祭りはちょっと顔ぶれが違う。
7月に開講した「鞆の浦まちづくり塾」の塾生たちが
参加しているのだ。

住民以外でも例祭に参加できることを意外に思うかもしれない。
けれど、祭りを取り仕切る祭事運営委員の人によると、
道越では昔から外部の人も秋祭りに参加しているそうだ。

塾生たちがどんなふうに
祭りに関わっているのか知りたくなり、
準備をしている所にお邪魔させてもらうことになった。

0212

塾を通して地域に
なじんだ塾生たち

最後のプログラムが秋祭り

塾生が集まっている所をのぞくと、
女性たちがおにぎり作りの真っ最中。
みんなテキパキと手際がよく、誰が地元の人で誰が塾生なのか
わからないほど。
塾生たちは、もうすっかり地域になじんでいるようだ。

秋祭りの準備は、夏から始まっていたとのことで、
塾生も「造り物(つくりもん)」という祭りの日に展示する
人形を地元の人たちと一緒に制作してきたそうだ。

また、塾生は有識者や地元住民らによる講義を受けたり、
町の古民家をリノベーションしたりする中で、
鞆について理解を深め、地元の人たちと触れあってきた。

秋祭りへの参加は、まちづくり塾の最後のプログラム。
祭りには、地域の歴史や文化、住民の意識、心意気が詰まっている。
鞆を「体感」するにはぴったりの場だ。

どんな人が、まちづくり塾を通して、鞆に出逢ったのだろう。
鞆に出逢うことで、塾生たちは何を感じただろう。
祭りの準備で忙しいところ、少し時間をもらって、
3人の塾生に話を聞くことができた。

034

知っているようで
知らなかった鞆

大学院研究員の田島美帆さん

田島さんは、現在東京に住んでおり、
大学院でワークショップ運営者を育成するプログラムに
携わっているそうだ。
自分でも、幼児や障がい児向けのワークショップを
運営してきたという。

母親が鞆出身だそうで、
「小さい頃は、鞆のお祭りに参加してたんですよ」
と教えてくれた。

祖父が亡くなったのをきっかけに両親が鞆に住むことになり、
それ以来、この町をよく訪れるようになった

いつかは自分も、両親と一緒にここに住むことに
なるかもしれない――。
そう思ったのは、父が体調を崩した時だった。

「でも、知り合いもいないし、町のことも分からない。
まず、知ることから始めようと思って」

ちょうどそのタイミングで、まちづくり塾のことを知った。
渡りに船とはこのことだ。

「塾に参加したことでとにかく知り合いが増えて、
帰るのが楽しみになりました」
と田島さんは話す。
どうやら鞆の人は、人懐っこいらしい。
地元の人のほうから、どんどん話しかけてくれるそうだ。

鞆ならではの人情にも触れたという。
台風が来た時、自宅前に土嚢を積まなければならなくなった。
母と自分しかおらず、どうしようかと思っていたら、
近所の人と塾生が、勝手に土嚢を積んでいってくれたのだ。

「もうね、手伝うよとも言わず、当たり前のようにやって
くれるんですよ。それですぐ次の所に行っちゃう。
かっこいい~!と思いましたね」

地域や隣近所のために、何かを「やってあげる」のではなく、
「それが当たり前」なのだ。
町の人のそんな心意気を、随所で感じたという田島さん。

田島さんが一歩踏み出すことで見えてきた鞆の顔は、
力強く、優しいものだったようだ。

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鞆はもう第二の故郷

設計事務所に勤める土井晴奈さん

ドデンドン ドデンドン
祭り太鼓の音が聞こえてきた。

「うちの子も太鼓の練習をさせてもらったんですよ」

そう言う土井さんは二児の母。
お子さんを連れてお祭りに参加しているそうだ。

土井さんは福岡県出身。今は福山市松永町に住んでいる。
伝統建築や古民家再生に興味があったこともあり、
以前から鞆はよく訪れていた。
町の人たちから直接、鞆の歴史などについて聞きたい
と思って入塾したとのこと。

「でも、一番印象に残ったのは、
この町には色々な人の居場所があるということでした」

鞆では、住民同士で見守り支え合う「互助」の文化を
大切にしているという。
住民に「互助」の意識があれば、ハンディがある人でも
地域コミュニティの中に自分の居場所を見出していけるのだ。

「実は、弟が心の病をもっていて……。
家族としてどうやって支えればいいんだろう、
彼にとって生きやすいとは、どういうことだろうって、
ずっと考えていました」

土井さんは、噛みしめるように話してくれた。
鞆みたいな町が増えたら、
みんなが生きやすくなるんじゃないか。
塾で経験したことが、生き方のヒントになった気がする。
私のような立場でこそ、発信できることがあるかもしれない――。

今後は、街並み保存にも関わっていきたいという土井さん。
鞆を重要伝統的建造物群保存地区にしたいという声があり、
住民の暮らしを守りながらどのように実現していくか、
力になりたいのだという。

「鞆はもう、第二の故郷です」
土井さんはにっこり笑って言った。
まちづくり塾に入ったら、みんな鞆のファンになっていく。
それは、鞆を訪れるだけでは見えないものが見えるから。

054

答えはゆっくり
見つければいい

理学療法士の渡辺理加さん

「塾生の人は皆さん、やりたいことがあって、色々な活動して
輝いてる。すごいなって思います」
この春に買ったという一眼レフを手に、渡辺さんは言った。

まちづくり塾の運営に関わっている介護施設
「鞆の浦・さくらホーム」のことは、
以前からよく知っていたという渡辺さん。

心理学の修士号を取って就職した後、
理学療法士になることを決意して大学に戻ったのは、
さくらホームの施設長で、同じ理学療法士の
羽田冨美江さんの影響も大きいとか。

理学療法士の資格を取得し、福山市内の医療センターに
勤め始めて1年半。
現場で働いて見えてきたものと、見えなくなったものとがある。

自分は、理学療法士としてどういう方向に進みたいのだろう?
それを見つめ直すために、地域密着型福祉が体験できる
まちづくり塾に参加することにした。

渡辺さんは塾に参加している間、本当にやりたいことを早く
見つけなければと焦っていたという。
でもまさに今日、その焦りを手放せるようなことがあったそうだ。

「今日、大学生が鞆の町を見学して感じたことを
プレゼンしてたんですよ。その時に
『まちづくりってすぐに答えが出るものじゃない』
って言った学生さんがいて。
それを聞いて……なんとなく思ったんです。
自分が出そうとしている答えも、すぐには出ないんだろうなって」

やりたいことに邁進している人が周りにいても、自分は自分。
きっと時間をかけたぶんだけ、見えてくるものがある。

「今は、色々なことを吸収しながら目標を見つけていけたらいいと
思ってます。塾はたくさんのことを吸収できるいい機会でした」

自分らしく進んでいけばいい――。
渡辺さんはきっと、そんなことが見えてきたのだろう。

064

貴重な出会いが
人生を変える

まちづくり塾が鞆にもたらしたもの

ドデンドンの太鼓の音が遠ざかって、
次に聞こえてきたのは三味線の音。

透明感のある秋の空の下、踊りの行列がゆっくりと進んでいく。

塾生たちは、年齢もバックグラウンドも、様々。
まちづくり塾に参加したことで、それぞれに
何かが動き出し、何かに気づき、何かを手放している。

その変化は彼らにとって、
人生のターニングポイントとなっているようだ。

また、まちづくり塾は、
地元の人にとってもよい刺激になっている様子。
40代の祭事運営委員の人が言っていた。

「土地の人間として、もっと文化のことを知っとかんといけんと
思った。外から来た人に教えられるようになっとかんとね」

特に祭のことは大切だという。
準備から、片付けまで関わることで、祭りの意味や仕組みが
よく分かるのだそうだ。
祭りとは、神様とつながる神事であり、エンターテイメントであり、
同時に地域の力を高めていく大切な行事でもある。

「まちづくり塾の塾生が、後々に祭りの担い手になるかもしれんね。
塾生で移住することになった人もおるけえ」

えっ移住?
それはぜひ、その人に話を聞いてみたい。
塾生が鞆に集まっている秋祭りの間に!

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