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東白川村の地方創生

平成26年5月、安倍政権における有識者会議(日本創成会議)において公開された“消滅可能性都市”が、政府をはじめとする日本全国の自治体に衝撃を走らせました。岐阜県東白川村でも、人口再生産力として位置付けられている“20~39歳の女性”の人口の予想減少率が非常に高いとされたのです。 同年9月には内閣府に「地方創生本部」の設置が閣議決定され、地方創生担当大臣には石破大臣が就任しました。安倍内閣にて策定した地方創生戦略を基に、東白川村でも“ふるさと版総合戦略”として地域の特徴を活かした様々なアイデアで地元の活性化を推進します。中でも注目を浴びている地方創生の成功事例が、ICTを用いたフォレスタイル事業です。

フォレストスタイルで地方創生(地方活性化)

ICTを用いた地方創生として、岐阜県東白川村のフォレスタイル事業が大変注目を浴びています。フォレスタイル事業は2014年、第3回全国村長サミットにおいて最優秀賞にあたる村オブ・サ・イヤーに選ばれ、総務省による地域情報化大賞にも選出されています。東白川村のフォレスタイル事業は、以下の2点から優れた地方の創生であることが認められています。
  1. 東白川村を支える基幹産業の強みを最大限に活かしていること
  2. ICTをうまく活用し、持続可能な取り組みであること
  これら2つの表彰によって知名度を上げた東白川村の“フォレスタイル”、その正体は住宅建築専用のウェブサイトです。 このサイトでは、自分の思い描いた間取り設計と建築費用のデータ積算を画面上で管理することができ、わかりにくい建築プロセスや資金面の相談もフォレスタイルが仲介に入ることで遠慮なく問い合わせることができます。 雇用も個人所得も減少し続けていた東白川村は、フォレスタイル事業によって、今では東京圏からも依頼を受けるなど活躍の場が広がりました。今回は、そんな東白川村の“村の基幹産業を最大限に活かす地方創生事業”をご紹介します。

東白川村の問題解決力

東白川村は村の約90%を森林で占めており、綺麗な木目と高い耐久性をもつ”東濃ヒノキ”の産地として有名です。そのため東白川村では長年、東濃ヒノキのブランド力を活かした建築業や林業が基幹産業となっていました。しかし社会の変化に対応できず、次第に村内工務店の建築受注は大幅に減少することになります。 この問題に立ち向かうべく、東白川村では受注が減った原因をひも解き、独自の解決方法を導き出します。東白川村が抱えていた問題点とその対策は以下の通りです。
問題点 影響 対策
顧客年齢層の若年化 (50~60代から30~40代へ) 工務店と顧客の営業接点がなくなる インターネットのウェブページで情報発信を行う
国産材は高いという顧客の思い込み 国産材を使った住宅が敬遠される 間取り描画とリアルタイム概算建築費の予算掲載システムを開発
小さな工務店の倒産疑惑 倒産リスクの少ない大手住宅メーカーへ顧客が流れる 公的機関(行政)が後ろ盾となる仕組みを作り、信用度をアップ
「良いものをより安く」と意識するため、顧客が価格競争を求めている 各々の地元工務店では対応できない システム内にて村内工務店をグループ化し、価格競争を生み出す
顧客のニーズが純和風住宅から無国籍住宅へと変わった 純和風住宅を得意とする工務店は、若年層のニーズと乖離した 若手建築家と連携をとり、ニーズに合ったデザインを取り入れる
これらの問題解決策として東白川村では、インターネットを利用して東白川の家づくりを売り出す事業「フォレスタイル」を創設したのです。開発に当たっては、ICT推進事業を対象に総務省から交付される補助金や助成金を活用しました。

フォレスタイルのソリューション

フォレスタイル(Forestyle)とは、森(Forest)と生き方(Lifestyle)を合わせた造語です。岐阜県東白川村にて、森の恵みに満ちた暮らし方を提案するウェブサイトとして、平成22年から運用が開始されました。 フォレスタイルでできることは、以下の5つです。
  1. 間取りシミュレーションができ、その概算建築費が自動計算される
  2. 家づくりに関連した疑問や不安などを相談できる
  3. 23人の建築士と村内10社の工務店から、自ら一体となって取り組むパートナーを決定できる
  4. 専用の掲示板を使って連絡がとれる
  5. 工事進捗状況やスケジュール等、現場最前線の情報を自由に閲覧できる
また、フォレスタイルを利用することで、東白川村から支援を受けることができます。 具体的な支援内容は以下の3点です。
  1. 建築に必要となる100~150本程度の柱を全て贈呈
  2. ウェブ利用でポイントが貯まった場合は、食品の定期宅配便やオーダー家具といった村内商品と交換可能
  3. 上棟式には村長が出席(お祝金の支給あり)
注文住宅は、そのプロセスが素人にはとてもわかりにくいものです。そのため、フォレスタイルが代理人となって顧客をサポートします。 建築士や工務店選びの際も、役場職員が中立の立場で間に入ることで、顧客の不安や疑問の解消に繋がります。特に資金面の質問は、遠慮して聞きにくいという方も若者を中心に多く見られます。これらの疑問点をフォレスタイルが代わって質問をすることにより、知りたい情報をストレスなく得ることができるのです。

ICTで地方の雇用を生み出した東白川村

林業と建築業を基幹産業とする東白川村にとって、安価な外国産材の輸入増加や木材注文住宅市場の縮小は大きな経済打撃となりました。村民の所得は年々減少し、若年層は村を離れていったのです。1998年から2009年までの10年間で失った村民の総所得は、10億を超えるとも言われています。東白川村は、日本国内でも多くの地域で見られる「産業の停滞→雇用の減少→企業改革が困難」という負のスパイラルに陥ったのです。 この現状を打破すべく考えられたフォレスタイルは、当初「インターネットで家は売れない」「公務員発のビジネスはたいてい失敗する」と酷評を受けていました。しかし今では地方創生の要となっており、住宅建築受注の件数は約70%増加、村民の所得も約16%増加しています。 東白川村は、事業の中にICTを取り入れることで負のスパイラルから「仕事の増加→雇用の増大→人材育成によるイノベーション思考を増やす→持続性のある産業発展」という持続可能な地域活性スパイラルを実現させたのです。 地方創生の成功の秘訣は、総務省が地方創生のために普及促進しているICTを利活用したこと、そして何より、東白川村の住民一人ひとりが課題解決を自分のこととして本気で考え取り組んだことにあります。 こうした岐阜県東白川村の取り組みは、ICTを用いて地域雇用の創出が可能であることを証明したのです。

地方創生「フォレスタイル」の今後の取り組み

フォレスタイル事業は順調に成長しており、ユーザー数や間取り保存数も増加しています。しかし、建築業は消費税増税といった社会情勢や地域所得、人口構成などの影響を大いに受ける業界でもあります。そのため、フォレスタイルの建築受注数にも波があります。 このような同じ悩みをもつ自治体や建築関係団体に、東白川村はフォレスタイルシステムを無償提供するとしています。多くの仲間と相乗効果を発揮し、さらに価値あるネットワークを構築することを目的としています。 また、現段階では公的機関がバックにいることが前面に打ち出されているため、顧客の信頼を得ています。しかし今後は、工務店などの民間企業が中核となってフォレスタイルを導いていくスタイルを確立させようとしています。

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