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大分県杵築市の地方創生

日本一小さな城が建つ大分県杵築市は、江戸時代の身分制度が色濃く残る国内唯一の「サンドイッチ型城下町」を活かした地方創生戦略を打ち出しています。城下町の北側と南側の二つの高台に武家屋敷が並び、谷間に市街地が広がります。 近年、観光客に着物を貸し出す取り組みも始め、江戸時代の雰囲気を味わうことができるスポットとして大人気。人口約3万人と規模は小さいながらも、年間100万人を超える集客に成功しています。 同市の地方創生戦略のポイントは次の二つです。
  1. 江戸時代の歴史あるユニークな城下町の活用
  2. 観光客の参加型プロジェクトの実施

国内唯一のサンドイッチ型城下町が強み

同市の地域活性化の礎となっているのが「城下町の活用」。同市の城下町はカブトガニが生息する湾を望む風光明媚な地に立地しています。さらに国内で▽最小の城▽唯一のサンドイッチ型といった独自性が備わり、恵まれた観光資源となっています。 杵築の城下町を訪れれば、武家屋敷が商家よりも高い位置にあることが分かります。江戸時代の身分制度を目で理解できるのです。 保存、公開する武家屋敷や石畳の坂道は映画のロケ地として使用され、谷間に広がる商家のうち老舗の味噌屋は人気のテレビ番組で取り上げられるなど、古き良き魅力が現代でも多くの人に受け入れられています。地域固有の地形や風土を魅力として活かす方創生の王道の例とも言えるでしょう。

着物姿の観光客が江戸を再現

「観光客の参加型プロジェクト」のようなアイディアにもユニークさが光ります。同市は城下町の整備にめどがたった段階で、地元商店街の人々を中心に「まち興しの会」を立ち上げ、「お城祭り」や「観月祭」といったイベントを実施。中でも毎年5月上旬に開催されるお城祭りは、江戸時代の衣装を身に着けた人たちが、大名行列やおいらん道中を繰り広げ、城下町の雰囲気を盛り上げる目玉行事として観光客の注目を集めました。 ここで、同市はさらなる一計を案じます。杵築の城下町がNPO法人から全国で初めて「きものが似合う歴史的まち並み」に認定されたことを受け、2011年4月に「きものレンタル和楽庵」を開館。観光客が130着にも上る種類豊富な着物の中から好みの1着を2400円で借りることができ、着付けやプロのカメラマンによる記念撮影を行うサービスを展開したのです。着物を着ていれば、観光施設の入館料が無料になるなどの割引も受けられ、幅広い年齢層から人気を呼んでいます。 観光客は普段あまり身に着けない着物で武家屋敷や古い酒蔵がたたずむ街並みを歩くことで、往時の情緒を存分に味わうことができます。また、着物姿の観光客でにぎわう様子が、江戸の街並みをより再現する効果があります。 イベントという一過性の集客だけに頼らずに、観光客がいつ訪れても江戸時代にタイムスリップしたような感覚を味わうことができる空間づくりを目指したところに、同市の勝因があります。

外国人観光客向け「城下町きつき地域通訳案内士」

訪日外国人向けに観光庁が「地域通訳案内士」の制度が平成30年1月4日に施行されたのはご存知でしょうか? 杵築市は制度施行からすぐに地域通訳案内士の育成に取り組み、「大分県杵築市地域通訳案内士育成等計画」を策定しました。 研修をしっかり行うことで外国人観光客にも杵築市の良さや歴史がきちんと伝えられる環境づくりを行っています。 近年、訪日する外国人観光客は増えているので、こうした取り組みを積極的に素早く行えるのは大きな強みですね。

利便性より、町並みの保存を!

にぎわう杵築の城下町の舞台裏には、かつての同市の賢明な判断がありました。自動車が普及し始めたころ、城下町では一時、道路の建設や拡幅工事の計画が進行していました。ところが20世紀末になり、住民たちから「このまま建設を進めればまちは壊れてしまう」と懸念する声が上がります。 車の利便性か、街並み保存か―。同市は双方を両立させるべく、道路計画を見直すとともに、無電柱化などの景観配慮策も進めることを決めました。 道路整備に伴う土地の買収で沿道の建築物の更新が一気に進むことを見込み、地区計画の策定や、建物の高さ規制などを盛り込んだ条例の制定を実施。「まちづくり交付金」を活用して市役所を奉行所のような外観に変えるなど、江戸時代をほうふつさせる街並みをつくり上げました。

ご当地グルメも登場!

09年度からは、江戸時代の歴史的建造物や道路の保全や修復に加え、観光地としての機能や魅力を向上させる「街並み環境整備事業」を開始。地元住民の交流スペースや観光客向けの情報を提供する拠点施設「きつき衆楽観」を建設しました。 きつき衆楽観の建物は大正時代の酒蔵を改修。館内では、大衆演劇をはじめミニコンサートを開催しているほか、特産品を販売したり、地元産の食材を使った料理を提供したりしています。 そして近年、さらなる地域活性化策として、地元のハモや新鮮な野菜をたっぷり挟んだご当地グルメ「きつきサンド」を創作。城下町内の喫茶店や食事処で、店ごとに全く違うサンドを味わうことができ、観光客が散策する際の楽しみの一つとなっています。 観光の広域化も目指します。15年7月には、同じ国東半島に位置し「昭和の町」でPRする大分県豊後高田市をはじめとする3市村と共同で、福岡市にアンテナショップを出店。たくさんの宿泊施設を抱え、良質な温泉で外国人観光客にも人気の同県別府市との情報交換を密にするなど、近隣自治体との連携を強化しています。

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