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地域包括ケアシステムとは?【番外編】

日本の少子高齢化という社会的背景から、近年「地域包括ケアシステム」という言葉をよく耳にするようになりました。 地域包括ケアシステムとは、”高齢者が住み慣れた地域で可能な限り自分らしい生活を最期まで続けること”ができるようサポートする仕組みのことを言います。これは、厚生労働省が指揮を執り、”2025年問題”として不安視されている様々な問題に対応するという意味を持ち合わせます。 具体的には、1)住まい、2)医療、3)介護、4)予防、5)生活支援といった5つのサービスが、24時間365日、一体的に提供される地域包括支援が望まれます。この支援の中核を担っている機関を地域包括ケアセンターと呼び、市町村によって異なる地域特性や社会資源の実態を踏まえて独自の政策を行っています。

待ったなしにやってくる”2025年問題”とは?

日本は諸外国に例を見ないスピードで、高齢化が進んでいます。2015年度中に早くも高齢化率は26%を超えました。 現在の日本では、団魂の世代と呼ばれる1947~49年生まれの人達が、人口の約5%を占めています。この世代が75歳を迎え、後期高齢者となる年が2025年です。驚くことに、約5人に1人が75歳以上になると言われているのです。この超高齢社会がやってくることで懸念される問題を”2025年問題”と言い、その中身は多岐に渡ります。
  • 医療費・社会保障費の増加
  • 介護従事者の圧倒的な不足
  • 孤独死や老々介護、介護難民といった悲惨な事態の増加
  • 介護保険料アップによる高齢者の負担増
  • “多死時代”に突入することによる火葬場や墓地の不足
  • 病院のベッド数不足と、それに伴い病院で最期を迎えられない人の増加
  • 自宅で最期を迎えるにも、介護可能な家族がいない
  • 高齢患者の増加による医師不足
  • 認知症高齢者の増加
こういった予想される様々な問題を事前に対処すべく、2025年を目途に厚生労働省が推進している取り組みが、”地域包括ケアシステム”なのです。

地域包括ケアシステムの歴史

そもそも最初に地域包括ケアという概念を提起したのは、広島県の一人の医師です。この医師は、退院後の患者のケアが行き届いていないことを問題に掲げ、出前医療やリハビリ、訪問看護、地域住民による地域活動の充実といった活動を導入しました。 それから長い月日が流れて2003年、高齢者介護研究会により提出された報告書「2015年の高齢者介護」にて”地域包括システムの推進”が提起されました。この報告書にて、介護と医療、福祉が連携し、専門職間の多職種と地域住民の参加を包括的に実現することが政策理念とされたのです。 さらに2015年度の介護報酬改定では、デイサービスと訪問介護の地域支援事業への移行が決定されました。これにより、従来までは全国一律のサービス内容であった各々が、地域に根差した多様なサービスとなり、利用者が選択できるようになるのです。  

地域包括ケアの5つの構成要素

地域包括ケアシステムでは、1)住まい、2)医療、3)介護、4)予防、5)生活支援といった5つの構成要素からのケアを包括的かつ継続的に行うことが必要となります。
  • 住まい:在宅ケアシステムの構築 高齢でも問題なく住み続けることが出来るバリアフリー住宅の整備、推進
  • 医療:在宅医療の強化 24時間対応の在宅医療と、それに伴う訪問看護の充実、認知症ケア
  • 介護:介護システムとリハビリテーションの強化 認知症の介護支援、24時間対応の在宅介護システムとリハビリの整備
  • :予防介護の推進 要介護状態にならないための予防対策強化と自立支援型の介護推進
  • 生活支援:地域連携と高齢者ケアの充実 配食や見守りなどの生活支援や財産管理などの権利擁護といったサービスの充実
 

地域包括ケアシステムのモデル事例

地域包括ケアシステムは各自治体の地域包括支援センターが中心となり、各々の地域特性や社会資源を考慮して構築されています。多くの自治体で実施されている取り組みの内、地域包括ケアの実践的なモデルとして注目を浴びている事例をご紹介します。

在宅医療推進と医療介護連携~千葉県柏市~

千葉県柏市は、地域包括医療の充実・強化に取り組んでいます。 地域包括医療の満足度を上げるためには、在宅医療を充実させる必要があります。日本の高齢者は医師への信頼度・依存度が欧米諸国よりも高く、在宅医療を推進させるためには”かかりつけ医”の養成が必須となります。柏市は、そこに目をつけました。 医師会の了承を得た上で、柏市は”かかりつけ医”の養成を目的に診療所医師を対象にした、在宅医療についてのセミナーを開催。さらに、医師会や薬剤師会、訪問看護連絡会など医療・看護・介護の連携体制を確立させるべく、多職種連携のルール作りや役割認識、課題共有の場を数多く設けました。 こういった研修や集会の他に、地域住民への啓発を目指したシンポジウムを積み重ねていくことによって、柏市全体で在宅医療への理解が深まっていったのです。

認知症患者が安心して暮らせるネットワーク構築~福岡県大牟田市

福岡県大牟田市が実施している地域包括ケアは、認知症高齢者の支援強化です。 2015年1月、厚生労働省により2025年には認知症患者が700万人を超えるとの推計が発表されました。近年では認知症という名前も一般的に認知されるようになりましたが、その症状やケアに関してはまだ広く知られていません。 そこで大牟田市は、認知症患者が安心して生活を続けることができるまちづくりに乗り出したのです。 まず大牟田市は、認知症患者と家族を支援するコーディネーター養成講座を開始しました。さらに、医師や看護師、介護、ケアマネージャーなどがチームとなり、連携して患者のケアをする体制を整備しました。また、認知症患者の徘徊行動による行方不明を防止することを目的に、小学校区での地域住民による徘徊模擬訓練が実施されました。 このことにより、地域住民の認知症患者への理解が深まると同時に、自主的に高齢者支援や患者ケアを行う意識の醸造へと繋がりました。そして、認知症発症後も自宅で生活を継続することができるという、安心・安全なまちづくりに成功したのです。 その他の自治体でも様々な取り組みがされています。その概要をご紹介します。 ◆NPO法人が主体となり高齢者支援、地域交流支援、子育て支援、障碍者支援といったケアを包括的に提供~大阪府大阪市~ ◆ボランティアとの協働による高齢者サロンを運営することによって、介護予防と生きがいづくり~福島県白河市~ ◆空き家を利用した低所得者への住宅提供と、孤立・障害といった問題を抱える人への就労創出と地域の互助機能強化~東京都新宿区~ これら地域包括ケアシステムの取り組みに共通して言えることは、「人材育成が必要なこと」「行政・医療や介護の専門職従事者・地域住民、それぞれの密な連携が必要なこと」です。そして、地域包括ケアを充実させることでの相乗効果として、地域コミュニティが増すことで地域全体を互いに支えあう”互助”の体制が強化される傾向にあるということです。

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