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旧滝沢本陣 横山家住宅

語り継がれる戊辰の記憶
旧滝沢本陣 横山家住宅の物語り
戦火の傷跡を生々しく残す、東北最古の民家
様々な「想い」が交錯するこの家を、
守り伝える歴史の語り部、繋ぐ若者ー

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「想い」を伝える場所

鶴ヶ城の北東、飯盛山の麓にひっそりと佇む、
茅葺屋根の入母屋(いりもや)造り、
延宝六(一六七八)年に建てられた古民家。

―旧滝沢本陣 横山家住宅。

参勤交代の折には、休息所として時の藩主がゆるりと憩い、
また、戊辰の戦では、ここに大本営が置かれた。

そうして、この民家から、白虎隊の出陣命令が下されて―。

平時における歴代藩主の営みの余情と、
戦時の記憶を留める生々しい戦火の傷痕が、
この古民家を訪れた者に、語りかける。

長い旅路を前にひと時の安らぎを得た、藩主の「想い」、
若き命をいくさ場に散らした、少年たちの「想い」、
それらを今に伝え続ける、語り部たちの「想い」、
そして、その“物語り”を受け継ぐ、次代の「想い」。

静かに、しかし、確固とした強さで語りかけられる、
さまざまな「想い」たち。

そんな、時を越えた「想い」の数々をつなげる、
「旧滝沢本陣」の物語り。

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憂いか、喜びか

この本陣を代々守ってきた横山家の方は、語る。
―「本陣」という名前は、戦争とは関係ないんです。

白河街道沿いにある大名などがための宿所。
徳川の治世ではこれを「本陣」と呼んでいた。

参勤交代、猪苗代・土津(はにつ)神社参拝の折、
会津松平家の家長が一時の憩いを得た場所。

静謐(せいひつ)な空気の中、座敷に腰を下ろし、
立ち昇る畳の香を感じながら、
縁側から望まれる苔むした庭園の美観に、
ひとつ、息を衝く。

これからの険しい旅路への憂慮か、
一年ぶりに逢う妻子への懐旧の情か。

江戸に残してきた妻子への憂思か、
一年ぶりの故郷への懐郷の念か。

「彼ら」はここで、一体、何を思ったのだろうか―。

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戦火の「想い」

時がたち、幕末の戦乱。静穏な空気は突如として、荒々しく破られた。

慶応四(一八六八)年、戊辰戦争―。

宿所には張りつめた空気が流れ、「本陣」の言葉に、にわかに戦の影が落ちる。

同年八月二十二日、会津の旗色は険悪。
会津藩主・松平容保(かたもり)公の心は悲痛なまでに―。

白虎隊士中二番隊に出撃の命を下す。
それがどんな結果を迎えるか、彼は知っていただろう。

「本陣」から初陣へと赴いた若き志士たち。
彼らは鬨の声を上げたのだろうか。

雄雄しきその姿、双眸(そうぼう)に漲っていたのは戦意か、
それとも―。

敵の喚声は、すぐ近くで響いていた。

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滲み出す、死者の「想い」

―白虎隊の歴史を伝えたいその覚悟を、想いを。

管理人の「想い」は静かだが、強く。弾痕・刀傷を今なお残す柱、壁。

静かな座敷にはあまりにも不釣合いで、あまりにも生々しく、
見る者の耳には、死者のざわめきが満ち始める。

「想い」は人を捉え、魅了する。

―暗くなるまで見学していく若い方もいらっしゃるんですよ。

豪奢な仏像があるわけではなく、有名な襖絵があるわけでもなく、
ただ、そこにあるのは剝きだしの「歴史」、凄まじい「歴史」の跡。

確かに在った生の跡が、時を越えて「想い」を繋ぐ。

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「想い」が遺す「歴史」

「想い」の連鎖は唐突に、乱暴に乱された。

あの日から、全てが変わってしまった―。
平成二十三(二〇一一)年三月十一日の大震災。

当初は訪れる人がぱったり途絶えた。今は幾分良くなったとは言え、
会津が本来の元気を取り戻すにはまだ時間がかかりそうだ。

数年前までは、修学旅行で、たくさんの子どもたちが訪れていた。
時には草むしりもしてくれた彼らの元気な声は、
もう聞くことはできないのだろうか。

―人に来てもらうのが、家にも畳にも一番いいんですよ。

横山家の方はそう語る。ただ、そっと保存するのではない。
人が来て、中を歩いて、空気が流れ―。

人と関わって生まれた「歴史」だからこそ、
人が関わることで遺される。

この「歴史」を今、ひとりの若者が自らの「想い」によって、
繋いで行こうとしている。

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膨らむ「想い」

滝沢本陣を守って来た横山家には、三十代になったばかりの若き後継者がいる。

―最初は歴史には興味がなかったんです。
地元に残る意思はなく、就職口も東京で探した。

管理人である祖母の跡を継ごうと思ったきっかけ、
それは、父の入院だった。

―男手が足りないだろう。そう思って地元の組合にも入った。

飲みに連れて行かれ、地元の歴史を聞かされて、
初めて知る、会津の「想い」。

次第に募る、「継ぐ」意思。

―周りに、お茶処をつくりたいんです。

人を呼んで、地元の「想い」を伝えたい。
彼の「想い」は、膨らんでいく。

江戸の時代から、「想い」は時を越えて、
今、また次世代へと受け継がれつつある。

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