愛南町の地方創生
愛媛県南宇和郡愛南町は、その名のとおり愛媛県の最南端に位置しています。平成16年、南宇和郡のすべての町村(御荘町・一本松町・城辺町・西海町・内海村)が合併したことにより誕生しました。
町の西側は内海湾に、南側は宿毛湾に面しています。リアス式海岸が形成されており、産業の中心は海の恵みに関するもの。景観にも恵まれていて、海岸部は足摺宇和海国立公園の一部になっています。
このように自然に恵まれた美しい町ですが、課題もあります。かつて真珠養殖が盛んだった愛南町、特に母貝の生産される旧内海村エリアは四国全体でもトップクラスの豊かな村と言われていました。しかしその後、真珠養殖が不振の時期を迎え、さらに松下寿電子工業の工場が閉鎖したことが、町の経済にダメージを与えることとなりました。
そして今、愛南町は経済的な豊かさと町民の誇りを取り戻すべく、地方創生のための取り組みを行っています。ここでは同町が注力する水産業振興のための事業をご紹介します。
目指せ!水産業の活性化
愛媛と言えばみかんが有名ですが、漁業が盛んな地域という側面もあります。愛南町の主な産業は、農業や漁業など一次産業。特に魚類の養殖業が盛んなのは特筆すべき点で、マダイ、カンパチ、ブリなどの全国有数の産地です。 しかし、愛南町の水産業も全国と同じく、長引く不況などの影響によって大変厳しい漁業経営を強いられています。そこで愛南町は、水産業活性化のための2つの事業を始めました。(1)愛媛大学南予水産研究センター設置事業
4町1村が合併し愛南町が誕生した平成16年、松下寿電子工業の工場の撤退により約600人が働き口を失うことになりました。雇用を創出すべく何とかして県外から企業を誘致できないかと、商工観光課をはじめさまざまな人たちが尽力してきましたが、交通アクセスの不便さなどから苦戦を強いられました。 そこで考え方を変え、初めから企業を招致するのではなく、まずは若い人材の呼び込み・育成に注力し、そのうえで企業の集積を行う方針にしました。若者を呼び込む手段として、愛媛大学南予水産研究センターを誘致。愛南町の誕生により使用されなくなっていた旧西海町庁舎の一部や廃校になった校舎などが活用され、静かだった場所に活気が戻りました。大学では3・4年の2年間を愛南町に住み研究を行う特別コースを新設。多くの学生が行き交う姿が見られるようになりました。さらに、学生たちがイベントなど地域行事に積極的に参加することにより、世代や生まれた土地の枠組みを超えた交流が持たれています。 この事業は、平成21年度の総務省市町村活性化新規施策100事例のひとつに選ばれました。ぎょしょく教育への取り組み
愛南町で力を入れていることのひとつ「ぎょしょく教育」。ぎょしょくと言えば通常「魚食」を指しますが、あえてひらがなの「ぎょしょく」と記しているのは意味があります。単に食べることだけでなく、生体や特徴、生産や消費の背景、さらには魚にまつわる生活文化までを知り、そのうでありがたく海の恵みを味わいつくすことを伝える地域教育なのです。 「ぎょしょく」7つの意味- 魚触 魚に触れてみる
- 魚色 さまざまな魚の特色を知る
- 魚職 漁業について学ぶ
- 魚殖 養殖業を知る
- 魚飾 年中行事や人生儀式においての魚文化を学ぶ
- 魚植 魚の生態とそれを取り巻く環境について知る
- 魚食 魚を味わう
国内最高級「ふかうら真鯛」
愛媛県全体での取り組みで、鯛の養殖に力をいれています。 生簀に工夫を凝らし、昆布を一緒に育て生簀にいれることで鯛がより自然に近い状態で育ちます。愛媛の養殖鯛は天然物にも引けを取らないブランド鯛と高い評判を得ています。 その中で、愛南町は「ふかうら真鯛」という養殖鯛を売りにしています。 東京でも有名な大手居酒屋チェーンとも提携しており、「鯛専用自動〆機」を開発し、使用したことで鯛の鮮度を落とさずに県外へ出荷することに成功しました。ICTの活用による次世代型水産業ネットワークの構築
こうした水産業振興にまつわる取り組みをさらに活性化させるべく、漁業従事者、漁協、行政、大学が密に連携を図って情報共有を行い、適宜業務の改善を図っていくことになりました。具体的には、ICTの力を最大限に活用し、次世代型水産業を確立した普及促進が始められました。事業の内容は、下記の3つです。- 水域情報可視化システム 漁業従事者が、水温や溶存酸素の状況、赤潮発生情報などをPC・携帯電話から閲覧できる
- 魚健康カルテシステム 魚病診断を行う現場に電子カルテを導入することにより、診断内容をさまざまなかたちで有効活用する。
- 水産業普及ネットワークシステム 愛南町の水産業PRをはじめ、ぎょしょく教育の振興、水産業に携われる人材の育成に活用する。