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塩尻市の地方創生

平成26年9月、安倍内閣において内閣府直属に地方創生本部の設置が閣議決定されました。11月には地方創生関連2法案が安倍政権にて可決、成立しました。地方創生関連2法案とは、「まち・ひと・しごと創生法案」及び「地域再生法の一部を改正する法律案」の2法案のことを言います。さらに政府は“地域課題の解決にICTを利活用し成功を収めている事例”を「地域情報化大賞」として表彰しています。長野県塩尻市は平成26年度、世界最大規模のアドホック無線センサーネットワーク網による「鳥獣被害対策」にて、地域情報化大賞特別賞を受賞したのです。さらにセンサーネットワークを活かす「地域児童見守りシステム」構築しました。 イノシシなどが大事な商品を食い荒らす鳥獣被害は、日本国内のみならず外国の農業関係の頭を悩ませています。また、登下校中の地域児童を守ることは世界共通の課題です。 石破大臣を地方創生担当大臣にむかえ加速している地方創生事業において、地方創生先行型交付金の交付や補助金の支給対象自治体に選ばれた塩尻市。こちらでは、先進的な取り組みを行う長野県塩尻市の政策をご紹介します。
※「アドホック無線センサーネットワーク」とは、専用の基地局を用いず端末装置自体が持つ中継機能を利用することにより、相互接続される端末群で構成されるネットワークのことです。基地局がなくても、他の端末を中継しながら通信エリアを拡大できるというメリットを持ちます。

塩尻市のセンサーネットワーク

長野県塩尻市は市営プロバイダー事業を1996年に開始し、その後光ファイバー網を整備してきました。市内全域には614台もの無線中継機が設置されており、ICT環境は世界最先端と言えます。 このICT環境とセンサーネットワークを活用して、情報の“見える化”を実現したのが塩尻市です。これにより、今まで気づかなかった情報の価値を見出すことが可能となりました。 〈 塩尻市のセンサーネットワークで得られる情報 〉 ○暮らしに役立つ情報 ・市内の気候 ・市域を運行する循環バスの現在位置情報 ○災害による被害を減らすための情報 ・降雨後の土壌水分量から土砂災害発生の警戒通知 ・鳥獣被害を減らすための情報と捕獲時の通知 ○市民の安全を守るための詳細情報 ・放射能情報 ・川や溜め池の水位 ・橋梁にかかる振動数を計測することによる異常の早期発見 ・登下校の際の児童の現在地や安否情報 ○市民からの通報 ・道路の陥没や不法投棄発見など市民からの情報

ICTを利用した画期的な鳥獣被害対策

農家にとって鳥獣被害とは、農作物の収穫減に繋がるとても深刻な問題です。塩尻市は稲作面積の約85%が被害にあった経験をもちます。鳥獣の中でも、イノシシによる被害は特に深刻です。イノシシの獣臭は強烈なため、荒らされた田畑の作物は出荷ができなくなるのです。 鳥獣被害への対策は、農家が電気柵を個々に設置して鳥獣の侵入経路を塞ぐ方法や、罠免許を取得した上で罠を仕掛けて捕獲するという、個人管理かつ物理的な対策が主流でした。しかし、罠の見回りや定期的な下草刈が必要になるため、多大な労力や経済負担がかかってしまいます。 塩尻市が考えたのは、ICTを鳥獣被害対策に取り入れるという新たなアイデアでした。この画期的な取り組みは功を奏し、取り組みから約2年で鳥獣被害をゼロにすることに成功しました。また農業収入も約6.5倍に増えたことから、農家の耕作意欲の増加、さらには塩尻市の地方創生戦略の中核を担う施策となったのです。 〈 ICTを活用した鳥獣被害対策 〉 ○野生鳥獣の出没を検知するセンサーを設置 →鳥獣出没の場所と時間をメールで通知 →サイレンの音や光で鳥獣を追い払う ○罠や檻に捕獲検知センサーを取り付ける →動物が罠にかかるとメールで通知 出没検知センサーにより、従来までは闇雲に設置していた罠や檻の仕掛けを、出没場所に絞って設置することができます。これにより、圧倒的に罠にかかる頻度が多くなりました。また捕獲検知センサーにより、捕獲後の処理を迅速に行うことができるため、駆除対策がより効率的に進むようになりました。 塩尻市は、センサーネットワークによって有害鳥獣の動向の“見える化”に成功。地元住民の統一行動を促すことで地域社会の絆を一層強くし、地方の活性化(地方創生)を実現させました。

ICTで子どもの安全を守る取り組み

児童が犯罪に巻き込まれる事件は後を絶ちません。そのため、児童の安全確保は各地域で優先度の高い課題となっています。 国のモデル事業の指定を受けて塩尻市では「地域児童見守りシステム」を構築しました。このシステムは、塩尻市が得意とするセンサーネットワークを利用したもので、子どもに子機(発信機)を持たせその電波を受信し位置情報を蓄積、保護者はその位置情報を携帯やパソコンで確認できるシステムです。これにより年間を通して、登下校中の子ども達の安心と安全を確保することが可能になりました。 〈 「地域児童見守りシステム」の3つのサービス 〉
  1. 特定の中継器に接近した際「接近通知メール」をお知らせ 保護者は任意で特定の中継器を登録することができます。我が子がその中継器の近づくと、保護者の携帯やパソコンにメールが送信される仕組みになっています。中継機は、子どもに近づいて欲しくない危険箇所付近が登録されています。
  2. 定期的に位置情報を発信 3分ごとに位置情報が更新されるため、保護者は専用のウェブページで確認をとることができ。閲覧の際にはIDとパスワードが必要となるため、不審者が勝手に閲覧するという危険性はありません。
  3. 子どもの意志で「緊急メール」を送信 子機のピンを自ら引き抜くことで、事前に登録された緊急連絡先へ緊急メールが送信されます。最大5人まで連絡先を登録できるので、対応の遅れが防止できます。

横展開が可能な地方創生

鳥獣被害対策や地域児童の安全確保を施策に掲げている地域は、国内のみならず世界各地に多く存在します。 塩尻市は、他の地域でも導入可能なセンサーネットワークの仕組みを実現させ、サービスの横展開を図っています。複数のセンサーをまとめる上位接続機器としてスマートフォンなどのネットワーク端末を配置することで、高価なプログラム開発やシステム構築の必要がなく、最小限の予算で基本的サービスを提供することができます。 また、センサーネットワークと連携でき様々な災害に対応可能なアプリケーションの開発や、それに伴う新たな雇用の創出等を目標をして計画を立てています。 このように、スマートな地方創生をふるさと版戦略として推進しているのが、長野県塩尻市なのです。

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